「沈黙研究会」を開催しました

只今開催中の『はじまりのかたち−素描−』関連イベント、「沈黙研究会」を4/13(土)に開催しました。
本学美術学科教員の西嶋亜美と、日本分学科教員の藤本真理子による、公開研究会です。
西嶋先生と藤本先生は「沈黙研究会」として、ことばと美術を分野横断しながら「無」について意見交換をしたり、他の教員に話を聞いたりと、普段より研究活動をされています。
今回は、展示されている「素描」作品にみられる「沈黙」について、また美術館という場所について再考する試みを行ってくださいました。研究会の内容をご紹介します。




まず、「沈黙」として思い浮かぶのは、会話中にお互いの言葉が途切れる瞬間でしょうか。とすると、沈黙とは「音」だけを表すものでしょうか?ョン・ケージが1952年に作曲した「4分33秒」という作品があります。これは、指揮者がタクトを振ることはなく、オーケストラの面々も楽器を用意してはいるものの、吹かず、弾かず、叩かずに、4分33秒後に演奏は終了します。演奏者や観客の服の擦れる音、椅子の軋み、咳…演奏中は完璧な無音ではありません。流れる時間を切り取ることを、沈黙というのであれば、美術でも切り取りとしての「沈黙」はあり得ることではないでしょうか。





展示作品の中に、風景のスケッチがあります。これは眼前に広がる風景を作家の目によって切り取って描かれます。また、10センチ四方の四角の中に、部屋の中の部分を切り取って描く授業課題の作品もあります。インスタグラムも普及している現在では、切り取ることが当たり前になっていますね。
完成品が切り取られてしまったこともあるそうで、『佐竹本三十六歌仙絵』という絵巻物は、あまりに高額すぎて買い手がつかず、切って売られたそうです。(今年の10月、京都国立博物館の特別展『流転 100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』で集結)洋画では、ドガがマネに『マネとマネ婦人像』を描いて贈ったのですが、婦人の描かれ方が気に入らず、マネが顔の部分を切ってしまったそうです。
「切り取られた外に広がる世界はどうだったのだろう。切り取られたパーツには何が描かれていたのだろう。」外側のことを知りたくなります。

文学における「切り取り」には、文字数の制限があります。
SNSで普及しているツイッターは、限られた文字数の中で言葉を発信していきます。俳句や短歌も、限られた文字数の中で情景や心情を表していますね。言葉の一つ一つから読み手が想像を膨らませることが出来る。ということは、切り取ることで「余白」がうまれます。

枠があるからこそ、外側ができて余白が生まれる。
「沈黙」とは、「切り取り」や「余白」でもあると、広く捉えることができたところで、私達が今いる「美術館」という場所について考えていきました。
「少し体を動かしてみましょうか。」との声掛けで、メジャーが出てきました。あなたは作品をみる時に、どれくらいの距離で見ますか?テクニックを真似したいと考えた時、どこまで近づきますか?等の質問を受けた参加者の距離を測ります。
始めは遠くから→274cm その後近づいて→21cm 
テクニックを真似したい→5cm  キャプションを読みたい→70cm



ルーペを使って、細部を観察してみましょう。筆圧の強弱や線の走る速さ、色の複雑な重なりを見ることができます。それぞれの道具を手に、皆さまとても楽しそうに鑑賞されていました。



今はイベント中なので、館内でワイワイと過ごすことが許されていますが、美術館では静かに過ごさなくてはいけない敷居の高い場所だと考えられています。作品を見ながら知識や感想を語り合いたい方のために、おしゃべりOKの日を設定する所も増えてきているようです。音声ガイドも俳優や声優の声で解説を聞けるようになったり、写真撮影が可能であったり、美術館が開かれた場所になるような工夫もみられています。その動きを歓迎する方もいれば、歓迎しない方もいるので、展覧会の内容だけでなく美術館としての方針や個性を考えていくことも必要となっているように感じました。


具体例を織り交ぜることで分かりやすく、「沈黙」というキーワードから豊かに広がった、盛りだくさんであっという間の楽しい時間でした。藤本先生・西嶋先生・ご参加くださった皆さま、どうもありがとうございました。
毎月第一月曜日に、尾道市立大学サテライトスタジオで開催されている『尾道文学談話会』の中でも、沈黙研究会の活動に参加することができますので、こちらもぜひご参加ください。
『絵を語る作家たち−近代日本における絵画と文学のあいだ−』
8月5日(月)18:30〜20:00
予約不要・参加無料
尾道市立大学サテライトスタジオ(尾道市土堂1丁目8-5/尾道駅より東に徒歩5分)




<展覧会概要>
「はじまりのかたち ー素描ー」  

2019年 3月2日(土)〜 5月6日(月・祝)

開館時間 10:00〜18:00
入館無料
休館日 水・木曜日(祝日開館)


造形作家やデザイナーとして活躍する教員の素描を、学生の作品とあわせて広く展示します。また、石膏や写生デッサン、下図といった従来の素描展での展示内容に加え、準備段階のスケッチや構想メモ、アイディアノートや写真によるメモ、作業途中の修正指示をも幅広く「素描」としてとらえなおして提示します。


【会期中イベント】
◎ワークショップ「滲みからはじまる世界」
4月28日(日)14:00〜
講師:菅原瑶子
内容:滲んだ絵の具のかたちをはじまりとして、そこから見つかる世界を描きます。
参加費:500円
※ご予約・お問い合わせは当館まで(0848-20-7831)









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