11月25日  In Focus

  今回の展示 では、尾道大学美術学科を卒業 修了し、 現在広島を出て各々の制作現場で活動を続ける、山梨 千果子、高松 明日香、佐藤 隼3人の作品をとりあげて紹介しています。 日本画、デザイン、油画と、属していたコースが違うこともあり、展示作品の表情は作家ずつまったく異なりますが、卒業、修了した今も尚作品に向かい、制作に取り組む真摯な姿勢は、展示作品からも一貫して見てとることが出来ます。 その作品たちを、作家たち自身、この展示室でどう見せていくか、考え、感じ、そして楽しみながら展示しました。 ぜひ直接美術館に足を運び、ここでしか出会えない展示空間を体験して下さい。 そして、可能な限り多くの方に、作品ひとつひとつと対峙してほしいと、切に願ってしまう、そんな企画展になっています。

 本展を知ってもらうために、まず主役の3人それぞれの作品を見ていくことにしようと思います。







 デザインの高松 明日香の作品は、ちょっとつめたい。描かれたものにそれ以上の意味は与えられない。そこには作家の感情とか意図とか内面的なものは混じらない。 モチーフは写真や絵画をトリミングしたもの。 写真の内容がただただ描かれている。作品の前に立つと、その物理的な作品との距離とは別の「距離感」を感じる。 ちょっと突き放されて冷たくされたような。 でも、作品はアクリル絵の具と筆で描かれていて、筆跡がある。確かに、ある。 そのことになぜかほっとしてしまう。ほんの少しやさしくされたみたいに。だから、「ちょっと」つめたい。 作品を見ているとその矛盾に惹かれていく。 物語性が見えたり、感情移入してしまうような画面ではないのに、なんかちょっとだけ温度がある。 画面自体はしんと静まりかえっているはずなのに、その1秒後には何かが起こりそう。 この画面の中の時間は一旦切り取られてはいるけれど、完全に切り離されているわけではなくて、少しの間一時停止されてるみたいだ。 「トイレ行くからちょっと一時停止」 戻ってきたらまた続きを再生できるような。 何も暗示していないはずなのに、何かを予感させる。 つめたいのにちょっとだけやさしい。 肌寒い冬の空の下で、あたたかい(ぬるめの)白湯を飲んでいるような気分。 そんなヘンテコな例えをしてしまうくらい、不思議な魅力がある。 






 日本画の山梨 千果子の作品は逆で、意志のないものにさえ命が宿っているように、じんわりとあたたかい空気が漂っている。日本画で使用される岩絵の具のきらきらとした質感も手伝って、独特のぬくもりがある。 「聞こえるよ」という作品には、数えるのが億劫なくらいの数の切り子の風鈴が描かれている。作品自体が大きいから風鈴ひとつは拳よりひとまわり大きいくらい。それらが画面全体に散りばめられている。まるで中央人物に引き寄せられて集まったみたい。風鈴に化けた精霊かしら。それとも言霊? 中央人物はその風鈴のささやきに耳をかたむけているのでしょうか。何が聞こえているんだろう。穏やかな表情を見ると悪いことではなさそうですね。良い知らせかもしれないね。 単に風鈴の音に耳を澄ましているのかもしれないけれど。 作品を見る側はあれこれ勝手に想像します。逆に言えばそうさせる力をこの作品は備えている、とも思うのです。 むしろ、ものすごく冷静な目で現実的な見方をすれば、これだけの数の風鈴に囲まれていたら、耳を澄ますどころか、ふさがなくちゃいけないくらいの騒音だろう。 でもそう感じさせないのがこの絵のすごいところ。「ちりんちりん」と優雅できれいな音色が聞こえてきます。ともすれば夢の中かと錯覚するようなうつくしい音色が。









 ただごとではない。油画の佐藤 隼の作品「一日の時間の収集」を見たときに感じたこと。びっしり何か密集している、膨大な量であるという物質的な迫力。はじめはただただそれに圧倒されて、呆然とする。なんだ、これは。 なんなんだ。 キャプションに近寄ってようやく納得する。 
  
 日々過ぎていく時間を視覚化する為に、1分に1枚を24時間 計1440枚撮り続けた。

 



 タイトルに添えられたこの文章をかみしめながら読んだとき、1日にどれだけの景色を私たちは見てるんだろうと、ぼんやりと、でも結構切実に、思った。 あまりにも膨大すぎてうまく考えられない。だからぼんやりと、思う。1日に見たはずの景色をはっきりとは思い出せないし、無論見えないわけだけど、この作品は、それをじんわりと実感するための手がかりになってくれる。そして少しずつ滲むように、その実感が体内にしみ込んでいく。 1分の間に私たちはこんなにも多くのものに出会っているという、提示されて再確認する当然の事実。そして、まったく同じできごとに出会うことなんて、一生のうちに一度もないんだなということを、またぼんやりと感じて、少しじーんとした。 そんなこと思ったって、出会ったもの、見たはずのもの、片っ端から忘れていくんだという変えられないこと。  いつだったか、誰かが人間の脳は30分前のことさえほとんどきちんとは覚えていられないようにできていると言っていた。私たちのなかの記憶なんてほとんど幻想なのかもしれない。 見たはずの風景。でも、思い出せない無数の景色。 曖昧で、焦れったくて、切なくって、くすぐったい。  この作品の感想です。 







作品から受け取ることは、人それぞれで違います。 こんなこと、言い尽くされてきたことだけど、あらためて言います。
 前述したことは、私一個人の感じたこと。 実際に自分の目で見たら、自分の身を展示室に置いてみたら、 どんなことを感じるのか、是非試してみて下さい。






                                           尾道白樺美術館スタッフ

In Focus 1

2010年11月13日(土)ー 12月5日(日)

開館時間 10:00 -18:00 23日(火)祝日開館 火・水曜休館






 この度尾道大学美術学科教育・研究プロジェクトの特別企画展として「In Focus」を開催致します。「In Focusは尾道大学美術学科を卒業・修了し、今後更なる活躍が期待される若手作家の創作活動に焦点を当て紹介する企画展です。シリーズ第1回目となる本展では、山梨千果子、佐藤隼、高松明日香の作品を紹介します。現在、3作家は広島県外を拠点に活動を展開しています。山梨は旅で出会った事物をモチーフに日本画制作を継続。佐藤は昆虫や移ろう時間をテーマに各地でインスタレーションを展開。高松明日香は風景や画像を独自の視点で切り取る平面作品を制作しています。

 それぞれの領域で意欲的なチャレンジを継続している3作家の作品をどうぞごゆっくりご鑑賞下さい。

尾道大学美術学科教育研究プロジェクト

尾道白樺美術館[尾道大学]

尾道デザイン作品展 ギャラリートーク

本日、10月17日(日)「尾道デザイン作品展」のギャラリートークが開催されました。
尾道大学のデザインコースの学生を中心にたくさんの方に参加して頂きました。





今年は雨天のため10月30日(土)に延期となった「灯りまつり」には、
尾道大学の有志で結成されたグループも参加しています。
「尾道大学ひかりアート研究会」と「西郷寺七福神石彫グループ」です。


灯りまつりの開催場所は全部で26会場あり、
そのうち尾道大学ひかりアート研究会が担当しているのは、
持光寺、海福寺、光明寺、宝土寺、西國寺、JR尾道駅前ベル・ポール広場、
しまなみ交流館前、ゆとりの広場、商業会議所記念館、向島兼吉地区の10会場、
そして、七福神石彫グループは西郷寺を担当しています。


そのうち、光明寺の会場では、灯りまつりに併せてデザインコース2年の山本くんが
独自の作品を展開しています。
光明寺の境内にある、光明寺会館のとなりのちょっとした空き地にその作品はあります。


9日、本場の「灯りまつり」は延期されましたが、山本くんの展示はその日に決行されました。

作品には電気を使っているようで、雨の降っている時から山本くんはひとり、
地中に埋まった電気の配線コードの防水対策に必死に励み、
その甲斐あって、雨のあがった夕方、作品には灯りがともりました。

今まで夜に脚光を浴びることのなかった「幡龍の松」はライトアップされ、
地面に埋まった灯りはいろいろなものの形を借りて地上を照らしていました。
この展示をしている空き地について、
「言ってみればここは”家のお墓”ですからね」と、山本くん。


土地の記憶・物の記憶
 23日(土)は夕方から点灯しています。
 その他、土日を中心に灯りをともします。
 会場は、光明寺の山門をくぐって一つ目の階段を上がり、さらに左手に階段をあがると見えてきます。


たまに、ひとりで作品のメンテナンス作業を頑張っている山本くんの姿を見かけます。
屋外の作品は管理が簡単ではないようです。
そんな山本くんの作品も灯りまつりと併せてお楽しみ頂ければと思います。


                                   白樺スタッフ

尾道デザイン作品展




 案外、尾道は、尾大生のデザインで彩られてるんだなあ。 

 今回の展示を見てまず思ったこと。 もちろん、不意に街の中で出会う、灯りまつりのポスターデザインが学生の手によるものであったり、何気なく手に取った「広報おのみち」の表紙もまた、そうであることを知らなかったわけではない。
 
でも、そんな風に出くわすことなく、知らないところで世に出ている作品たちも数多くあり、しかも、そのどれもが、実際に商品化されていたり、街のなかに設置されていたりと、「尾道」でしっかり活躍しているのだ。 JA三原から販売されているレモン飲料やゼリー、尾道造酢から出ている酢飲料、和菓子「山本屋」の商品等のパッケージデザイン。グリーンヒルホテル、東尾道彫刻公園のロゴデザイン。因島重井町のPRポスター。尾道市役所の封筒のデザイン。 今回の展覧会で出会う作品たちは、「尾道」を題材につくられ、そして、地域の人々のために活用されている。
  
 展示会場では、その実物の作品と一緒にコンセプトボードが展示してある。それらに目を通しながら作品を見ていくと、共通して気付くことがあった。それは、どれも誰かのためにつくられている、ということだ。 デザインなんだから当たり前のことじゃないか、と言われるかもしれないけれど。 作品の向こうにはいつも「誰か」が見える。 その「誰か」に、こう感じ取ってほしい、という想いがつまっている、そんな作品ばかりだ。 そして、それを伝えるために、どの作者も少なくない時間を割いて、しかるべき手順を踏んで丁寧に仕事を進めたことが読み取れる。 「デザイン」っていう響きって漠然と、(勝手に)デジタルとかスタイリッシュとか、なんだかクールなイメージだったけれど、その制作過程を知るとそんなことはなくて、作者の「誰か」に伝えるための試行錯誤の熱は無視できない。 
 見所は他にもある。今回の展示にはいろいろな表現方法を用いた作品があって、単純に飽きない。 粘土細工のかわいらしい模型や、アニメーション、クレイアニメ、映像、実際市場で売られている商品(今回、美術館でも一部販売中!)、ギター等。
 それらは、「尾道」というテーマを与えられて、生き生きとしている。作者それぞれが、そのテーマへの回答を、それぞれのやり方で導き出す。それにしばられたりだとか、固執したりだとかせずに、各々、「尾道」というテーマを咀嚼し、なおかつ楽しんで制作しているように思う。
 [尾道」と[デザイン」、このふたつの関係は割にいいんじゃないだろうか。



                                白樺スタッフ

  
 
 

木のしごと 松本寛治展

白樺美術館の一番大きな展示室に入って、不意をつかれて心を打たれた。
いい展示だなあ、と思った。

松本さんの工房で出番を待っていた作品が喜んでそこにいるようだった。
ひとつひとつの作品の存在感は大きく、とても丁寧で美しいものばかり。
作品が主役の展示。
他に余計なことは何も考えなくてよくて、誰かのにおいもしない、いい展示だ。



また、今回花を使った作品も同時に数点展示している。中さんの作品だ。
松本さんの作品にささやかに心地よく調和している。
展示室全体では、それは大きな大きな存在だ。


作品の展示、いい展示とは。
それは作家がひとりで考えても、上手くいかないことのように思う。
なぜなら、制作しているときは自分自身、意外と冷静でも、
手から作品が放れて、その作品にとってどう展示をするのが一番いいのかを考える時、
少なからず悩みもするし、混乱もする。
どう見せるのが一番いいかを考えるなんて、冷静ではいられなくなる。

そんな中で、そこにもうひとり、別の誰か、展示を客観的に考える誰かが必要で、
その誰かは、作家のこと、作品のことを深く理解しようと努める人間で、
そしてさらに、その人間はいい展示をしたい、と強く思う人間でなければ
作家はその人間を信頼し、その人間は作家を信頼する。
作品の個人的な部分に与らず、作品の一番いい見せ方を探る。

今回の展示では、白樺美術館のディレクターである三上清仁が、
作家の信頼のおけるそのパートナーとして、松本寛治と展示を手がけた。

三上さんはいい展示をすることを考えて、そして作家である松本さんは三上さんを信頼する。
その信頼関係は、いい展示のための必須の条件のように思った。



松本さんの作品は本当にどれもいい作品だと思う。
シンプルで媚びていない。

ひとたび展示室に入るとからだの奥がふわっとあたたかく緩むのを感じる。
松本さんの手間ひまかけられた作品が、私たちに感じさせるあたたかい何かを味わって頂ければと思う。


今回の「木のしごと - 松本寛治展 - 」では、いつもの白樺美術館が色を変え、
みなさまのお越しをお待ちしております。
ぜひ多くの方にお越し頂きたいと思います。


                                   (白樺スタッフ)

アーティストトークのお知らせ
 9 月 11 日 ( 土 ) 15時ー  MOU尾道白樺美術館にて

                                   




木のしごと 松本寛治展 搬入・展示風景



28日(土)からはじまる、『木のしごと 松本寛治展』の搬入・展示を行っています。
続々と松本さんの作品が運ばれてきています。
白樺美術館で、木工作品をメインに展示するのは初めてじゃないでしょうか。
個人的にもとても楽しみな展覧会です。

下の写真のバケツ、気になりますね。
中身は、・・・ただの水です。湿度調整のためです。
最後に尾道に雨が降ったのはいつだったか。
あいかわらず残暑が厳しいですね。
(白樺美術館アシスタント)