サテライトスタジオ展示作品のご紹介

現在開催中の「浮游 −塩川髙敏展−」は、当館と尾道市立大学サテライトスタジオで同時開催しております。
当館では制作の流れを追って、デッサンなども含む約60点をみていただける構成になっておりますが、サテライトスタジオでは多様な作品10点を一度にご覧いただくことができます。


今回はその中から3点をスタッフが選び、文章にしてもらいました。塩川先生が仰っていた「私自身が語るのではなく、みる人が作品と向き合い、それぞれに語らってほしい」の言葉通り丁寧に伝えてくれた以下の言葉と、皆さまの惹かれるところや選んだ言葉の違いを感じながら、展示をみたり、思い出していただけたら幸いです。




「貌’10
宙に浮くクローズアップされたサボテンとその奥には水平線が見えます。
サボテンといえば乾いた印象を持ちますが、塩川先生の作品では瑞々しさを携えているように見えます。それは血管のように張り巡らされた歪みが表面を走り、複雑な流れを全体へ行き渡らせているからでしょうか。
ザワザワとした生命力を感じられるサボテンと共に描かれる水平線は凪、静かに見えます。画面全体が柔らかな光をまとい、包容するような悠然とした眼差しを感じられました。 




「貌’10」の静かな水面に対してP8号の「浮游」は、光を受けた水面が跳ね上がり飛沫をあげています。深さを持った水面の青の存在の精彩さ。画面下方部には伸びやかに悠々と水中を泳ぐ人物と画面外から水中に飛び込んできたような人物もいます。水面と隔たりを作るゴーグルをつけた人物は他の作品にも繰り返し描かれています。大学美術館にもゴーグルをつけた人物が描かれた作品や、アイディアスケッチの中にも登場するので是非見てほしいです。
重力を感じない水中という異空間は水上と線引きをされ、個を強調される特別な場所のようです。なぜなら水は体を取り巻く膜にも思え、孤独な一人一人という感じもします。




「倶・楽・部」
ビリヤードに興じる人物を中心に、頬杖を付きその姿を見つめる姿や、あやとりをする手などが取り囲みます。鮮やかな緑色のビリヤード台の上にはサイコロや矢印など様々な形が点在しています。
人体の構造や室内は解体され、人物同士や室内の物体と融合され、緩みのない鋭い面で再構築されています。そしてそれらに馴染むような、鮮やかな色彩のぶつかり合いが目を引きます。
油絵の具特有のねっとりした質感や、削られた跡、発色の良さは油絵の具の持つ魅力を発揮されています。均一の幅で繰り返されるボーダーや、水平に走る線が多用されているのも印象的で、遠くから見ても、近くからでも見どころがたくさんあります。



今回書いてもらった文章や、ご来館いただいた方とお話をさせていただくと、毎日作品を見ている職員でも、確かにそうだと改めて気づくことがあります。作品をみることはとても自由で、人それぞれに発見があり疑問があり感動があります。心の揺さぶりを作品と共に記憶の中に留めて帰っていただくことができたら、とても素敵だと思いました。





<現在開催中>

「浮游 −塩川髙敏展−」  

2018年 10月20日(土)〜 12月9日(日)


会場 MOU尾道市立大学美術館・尾道市立大学サテライトスタジオ
開館時間 10:00 - 18:00
休館日 水・木曜日 
入場無料



尾道市立大学の設置準備の時以来、大学の教育研究の充実に尽力し、2017年秋に急逝した画家の創作の軌跡を振り返る企画展。初期作品から代表的なシリーズ「樹映」や「浮游」をはじめ、尾道の風景など、制作の変遷を辿りながら画家の創作の核心に迫る企画です。